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微妙な故障者リスト

うちの小学生の娘たちのこと。
娘ふたりが、こわれたおもちゃのがらくたなど集めて、なにやら不条理コントみたいなごっこあそびをしていた。
曰く「年に一度開かれる市にやってきて【超ビミョー】なものばかりを売るへんな行商人と客のやりとり」という設定なんだそうだ。
その商人、役に立たなさそうなものばかりを
「おー! これ! 使えねえ~! 超ビミョー! こういうものこそ欲しかったんです!」
と、なぜか喜んで買い取っていく。

ところで、長女が演じた変な商人のセリフを見て、何か気づかないだろうか。
「使えねぇ~!」と「超ビミョー!」の取り合わせ。
「微妙」という言葉の、本来の意味からすればありえないペアである。にもかかわらず、わりと自然に聞こえるのはなぜか。
おそらく本来の「微妙」が、新しい用法の「ビミョー」に変わるまでの間に何かが変化してしまっているのだろう。

ここで、ちゃんとした国語辞典が元ネタになっているWeb辞書をひいてみることにしよう。

******** (「@nifty辞書」より引用:「大辞林 第二版より」とのクレジットあり)

びみょう ―めう 【微妙】

(名・形動)[文]ナリ

(1)なんともいえない味わいや美しさがあって、おもむき深い・こと(さま)。
「―な色彩のバランス」

(2)はっきりととらえられないほど細かく、複雑で難しい・こと(さま)。
「両国の関係は―な段階にある」「―な意味あいの言葉」

[派生] ――さ(名)

********

この辞書はまだ(2)の意味までしか認めていないようである。

おそらくは(2)から派生する形で、まず
「どちらかといえばよくない・こと(さま)を表す、遠まわしないい方」
という新しい意味が登場し、これがやがてさらに「完全に悪い状況」をも含めた状態に膨らんでいったのだろう。
(これを勝手に(3)とさせていただき、本来の意味から区別するためにカタカナ書きにさせていただいている)

たとえば

「○○選手の来週の試合への出場は微妙」

という記事があったとする。おそらくは、こういう種類の表現が(2)から(3)へのボーダーラインではないかと思われるからだ。
この○○選手がNFL(アメリカのプロフットボール)の選手だったとしよう(笑)。NFLでは選手のけがの程度を、次の試合への出場確率に対応させて

OUT-0%
DOUBTFUL-25%
QUESTIONABLE-50%
PROBABLE-75%

という言葉で表している。
(アメリカのほかのプロスポーツでも使う表現でしたっけ? ご存知のかたはフォローくださいまし)

Probableは比較的軽傷で、回復が遅れない限りは次の試合に出場できるということなので、少なくとも現在使われているどの表現でも「微妙」とは言いそうにない。「出場は微妙」と言った場合、本来の「微妙」の意味でカバーできていたのは「questionable」か「doubtful」であろう。出場できるまでに回復する見込みが全くない「out」には、(2)の意味までしかもたなかった「微妙」は使えなかった。
しかし(3)すなわち「ビミョー」の場合は「out」までをカバーする。むしろ「questionable」よりは「doubtful」か「out」を指す可能性が高いといえよう。この「ビミョー」は客観的な事実や状況がどうみても「out」であっても、そう言い切ることは避けようとしている。つまり、発言者の気持ちのほうが「微妙」なのである。
これは「複雑で難しい」というニュアンスが「客観的な事実や状況そのもの」から「発言者の心情」のほうに移ったもの、とも思える。これが「否定の婉曲表現」として使われる新しい「ビミョー」ではないのだろうか。

われわれお年寄り(?)が注意しなければならないのは、特に若者や若者言葉に慣れた人に(1)や(2)の意味で「微妙」という言葉を使ったはずが(3)と解釈されたり、逆に(3)と言われたものを(1)や(2)と誤解する危険だ。
(もっとも(2)と(3)はつながりがありそうなので、今後境界線が曖昧になっていく可能性もなくはない)

ことばは時代によっても変化するものでもあるし、今後(3)の意味が優勢になってくる可能性もある。
だがその一方で、(1)のような使い方というのも、これからの日本語が失いたくない美しいことばのひとつではないのだろうか。

だとするならば、今後の我々に必要なのは(1)でも(2)でも(3)でも読み分け、使い分けられる
「文脈の解釈力」
にほかならないだろう。
ただ、特に味覚や芸術など個人の嗜好の振れ幅が大きなものに対して使う場合は、その文脈の解釈力をもってしても追いつかないことがままあるので、注意が必要だろう。
褒め言葉に(1)のつもりで使ったはずが、(3)と思われて気を悪くされたりしては心外もいいところだ。
やはり日本語は、ネイティブスピーカーにとっても難しいのである。

コメント (2)

匿名:

1の意味は絶妙とかでカバーできませんかね?[

遅くなってしまってごめんなさい。いらっしゃいませ。

意味上の「まぎらわしさ」を解決するという意味では、あなたのご提案はなかなかのものだと思います。
ただ「微妙(1)」と「絶妙」が必ずしも交換可能な言葉であるとは限らないことにも配慮が必要かもしれません。

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