そういえば音楽論もどきのネタって久しぶりかしらん。
だーいぶ前から真面目に考えていたことがあったのでちょっとわたしなりにまとめてみます。
まあ、表題の通りで、ミュージシャンや、バンドなりユニットなりとにかく音楽活動のグループ、さらにはアイドル歌手などを含めた音楽奏者一般をひっくるめる便利な表現として「アーティスト」という言い方をよく使いますね。特にCDを出したり、ライブを開いたりするときにメインで名義を出す人を指すことが多いように思います。
これに対して、中には
「芸術表現を志していない、またはしていないのに《アーティスト》とはけしからん」
「自分で歌詞や曲を作っていないのに《アーティスト》なの?」
という反発もみられるようです。
そんなわけで、本当に「アーティスト」という言い方が不適切なのかどうかをわたしなりに考えてみました。
いつか近いうちには「作詞や作曲抜きの『歌』『演奏』は芸術や表現ではないのか」という、決して少なくはない数のポピュラー音楽リスナーが誤解しがちな問題についても論じたいところですが、今回はその問題は脇に置いて、「アーティスト」という言葉の辞書的な意味をちょっと検証してみたいのです。
まず「アーティスト」という言葉は外来語です。つまり、既にカタカナの日本語化している言葉ですので、最初に国語辞典をあたってみることにしましょう。
(なお、辞書からの引用にあたって、用例は割愛させていただきました)
ネット辞書を使ってみると、「大辞林」「大辞泉」で似たり寄ったりの結果が出ました。いずれの辞書も、見出し語としては「アーチスト」を採用しています。
大辞林
アーチスト【artist】 《「アーティスト」とも》芸術家。特に美術家や演奏家・歌手をいう。
大辞泉
アーチスト【artist】 〔補説〕 アーティストとも/芸術家。特に、美術家・演奏家をいうことが多い。
ということで、双方の辞書とも、音楽奏者を「アーティスト(アーチスト)」と称することを既に認めているようです。
つぎに、先にも申しましたが、「アーティスト」という言葉は外来語です。つまりこれは語源となる言葉についても調べたほうがいいと思われますので、英和辞典を調べてみることにしました。
すると
プログレッシブ英和中辞典
artist[名]
1 芸術家;美術家, (特に)画家, 彫刻家, 絵のうまい人, アーチスト, 芸能人(artiste).
2 達人, 名人;((けなして))…屋, …師
3 ((俗))(よくないことに)熱中する人, 溺愛者
artiste[名] 舞台芸術家, 芸能人(特に俳優・歌手・舞踊家など).
ちなみに後者はフランス語からの「外来語」で、artistのアクセントが「art」の音節について「アーティスト」みたいな発音のに対し、artisteのアクセントは「tiste」の音節について「アーティスト」になるらしいです。古い辞書やポケットサイズの辞書だと「artist」には「artiste」の意味が含まれない場合もありますが、近年の普通サイズの辞書では「artist」を「artiste」の意味でも使えるとしていることが多いようです。
更に、フランス語のポケット辞書「ポケットプログレッシブ仏和・和仏辞典」をひいたところ
artiste[名]
(1) 芸術家;アーチスト;画家,彫刻家 (2)名人,達人
と書いてありました。こちらの「artiste」には芸能・音楽関係の意味が見当たりませんが、カレー海峡(ドーバー海峡)を渡ったときに意味が捩れたのか―日本の外来語にもよくありますね―、元々フランス語にそういう意味があるもののポケット辞書なので省略されているのかは定かではありません。
なお、フランス語の「artiste」は「芸術家肌の、芸術的な」といった意味の形容詞にも使うそうです。
さて、英和に戻って、「artist(e)」という言葉の大元はやはり「art」という言葉です。
当然、こちらにもあたったほうがいいでしょう。すると
art[名]
1 [U][C]芸術, 美術;((集合的))芸術作品, 美術品
2 [U][C]技術, こつ, 要領;(…の)術((of ...))
3 ((~s))人文科学, 教養科目;((主に英))文科系(の学生)
4 [U]人為, 技巧(⇔nature);(ふるまいなどの)不自然さ, 作為
5 [U]こうかつ, 策略
6 [U]((集合的))《ジャーナリズム》さし絵, カット.
7 ((~s))芸能界, ショービジネス
8 ((米俗))(警察で)手配写真.
(太字は引用者による)
「芸術」のほかに「技術」とか、更には7つめに(通例複数形で)「芸能界」という意味もあったりなんかして。おそらく「芸能人」という意味の「artist(e)」はこの7つめの意味をメインに、若干1つめ、2つめあたりの意味が加味された「art」にかかわる人、ということではないでしょうか。
そんなわけで、語源である英語からして既に芸能人、特に音楽関係の芸能人を artist(e) と呼ぶことが許されているのです。
つまり「音楽奏者をアーティストと呼ぶこと」は英語でも日本語でもことばの上で問題ありません。

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