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その後の寿司屋

だいぶ前、握り寿司の数え方についてのエントリーを書いたことがあったのだが、先日アクセス解析ソフトからこのエントリーに検索でお越しいただいた形跡を見つけたことがきっかけで、当時参考にしていたWikipediaの記述がいまでは大幅に変わっていたことに気づいた。

2-Jul.-2006版

握り寿司を数えるときの助数詞は「(かん)」である。寿司用語としての貫は元来、数量(個数)ではなく、おおよその質量(分量)を表す単位として用いられる。相当分量は1貫あたり約40~50g前後(現在の標準的な握り寿司の2個分程度)であり、握り2個で1貫と数える。通常、1個の場合は「半貫」と計数するが、1貫(約2個分)の大きさを満たす場合に限り1個でも1貫と計数する場合がある。

(文字強調は原文に則ったもの)

しかし、最新版では「握り寿司の数え方」の記述はこのように変化している。

8-May-2008版(リンク先は最新版)

現在では、握り寿司1つを「1かん」と数え、「貫」の文字を当てることが多い。

(中略:詳しくはもとのWikipediaをお読みになったほうが早いでしょう)

もともと一般性がなく、忘れられかけていた「かん」という助数詞が、昭和の終わり頃から情報番組などでメディアに登場して注目され、「かん」という音の響きが握り寿司にフィットしたこともあってか、現在定着するに至ったようである。同時に「昔1かんの寿司を二つに切って提供したなごりで、寿司2つで1かんという」とした説も頻繁にメディアに登場したが、握り寿司を二つに切って提供することが標準化した時代はない。

なんと! いまのWikipediaによれば、わたしがずっと信じていた「1貫=2個」説は嘘っぱちだったんだそうで、おすしの数詞「かん」というのも昭和末期から普及したものだってまじっすか?
というわけでWebをあちらこちら検索してみたが、ほとんどのサイトがWikipediaの、1貫=1個説は比較的新しい(記述がこのように変化したのは2007年の夏頃のようである)、1貫=2個説はそれより古い記事を参照しているようである。

Wikipedia以外の、たとえば書籍で裏をとっているサイトはないのか?と思って調べてみたら、こんな記事を見つけた。

夕刊フジBLOG:言葉のタネ明かし「1貫」銭1貫でにぎり寿司2個

この記事は小学館の「数え方の辞典」を読んで書いているようだが、それを孫引きしてみると

すると「最近では1個を1貫で数えるように変化しています」とある。

さらに読み進めてみると、

 辞典の「最近」がいつのころ以降を指すのかよく分からないが、語源の上からも元々は2個で1カンだったことが推測できる。先の辞典の記述にも見えるように、カンは貫と書く。江戸時代のにぎりずしが穴あき銭1貫分の特大サイズだったため、後に食べやすいように2つに分けて2個にぎるようになった。つまり、2個で1貫分。だから1カンは2個なのだ(いじましい話ながら、1カンが1個では損をしているような…)。

この記事も小学館の「数え方の辞典」も「もともとは1カン=2個」説を支持しているようだ。というか2006年のWikipediaの記述もこの「数え方の辞典」を参考にしたものでは、とも思える。一方、現在のWikipediaはこの「穴あき銭1貫分」説を否定している模様。重量などの計算が合わないことや、少なくとも昭和35年以前の寿司関係の文献が「貫」ではなく「個」表記となっていることなどを根拠としているようだ。

ちなみに最近のマスメディアでお寿司についてとりあげるときは「2個」とも「1個」とも解釈できてしまう「1カン」を避けて「○個」とするのが普通だそうな。(最近できたにしても)日本の助数詞文化の豊かさを受け継いだおつな言葉だと思ってはいたが、紛らわしくてしかたない現状を踏まえればやむを得ないだろう。
この際寿司業界でことばやお寿司の歴史を踏まえた協議の上(お寿司の現場の方々と、国語学者・特に江戸期以降に詳しい歴史学者にそれぞれ複数集まっていただければなおよし)、どちらかに統一してしまったほうがいいのではなかろうか。

それにしてもネットでWikipediaの記述を「正しい」として引用している人の多さに驚いた。
(というかわたしもちょくちょくやってるし…)
Wikipediaの編集の末席を汚すひとりとしても、うかつに間違ったことは書けない、という責任の重さを感じる。

そしてわたし自身は、一度、時間のとれる日にでも近くの図書館に行って、日本語の辞書と日本食(特にお寿司)の文献を自力で読み漁ってみたい、そんな気がしている。
もしそれでなにかいい成果が上がったら、その結果をWikipediaに還元しようとも考えている。

コメント (6)

いつもたのしく はいけんしてます。
ボクのうちでは、おすしは「ひとさら、ふたさら」とかぞえます。
ちなみに色のついたおさらは、おかあさんから「一人ひとさらまで」ときめられています。

・・・以上、子供が書いた「親が見たら泣ける」作文風にお送りしました。

金のおさらはおとなになったら自分ではたらいたお金でたべてね。おかあさんにもごちそうしてあげるといいですよ。
[よくできました]

うちはあまり外食をしないので回転寿司にも滅多に行かないんですけど、回らない寿司屋といっても入口に蝋で作った見本と値札が置いてあるところじゃないとまず入れません。笑

澪:

寿司の数え方?
んなもん一匹二匹でしょ!
…………違った。
@rz

namancha:

>澪ちん
じゃあさ、箪笥とうさぎとお箸もかぞえてみてくんない?

澪:

>mamancha
一棹二棹
一膳二膳
兎は一羽二羽!

namancha:

よーし♪
さすがにこれくらいは知っててもらわないとね~♪

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